投稿作品「時間停止能力の使い方 ~ある男の成長~」(孤独な水鶏さん)
朝日の陽光。小鳥のさえずり。
典型的な朝の情景描写で目が覚めると、典型的に両手を真上に伸ばしながら大きなあくびをする。
辺りを見回すと、俺の寝相による犠牲者が三人、ベッドから転げ落ちていた。
特に中国の軟体少女など、ブリッジをしすぎて普通とは逆向きにうずくまっているような、人体の神秘を想わせる有り様になっている。
いったいどのように押し出せばこんな状態になるのか。
父の話では、俺は赤ん坊のころから寝相が悪かったらしい。
就寝時にモノをくわえさせていたフランス令嬢の口を開け、夜に出したときに鼻へ逆流していた分もかき出して飲み込ませる。
枕元にひざまずいている黒人プロレスラーの頭の上に目覚まし時計を乗せておいたのだが、作動した様子がない。
電池が切れたのだろう。今日は急ぐ用事もなかったが、口実ができたのでその筋肉質な体を立たせる。
思い切りビンタを食らわすと、五発目でベッドに倒れた。今まで力を武器に闘っていた女性を痛めつけるのは、何度やっても気分がいい。
ガーナ人教師の口に小用を足しながら、俺は初めて時間を止めたときのことを思い出した。
◆ ◆ ◆
元々この時間停止能力は父方の一族に代々受け継がれてきたものだった。
父は普通の恋愛結婚で俺が生まれたのだが、その父は祖父が当時のミスワールドを俺みたいに捕獲、監禁して産ませた子供らしい。
そんな理由でかなり恵まれた容姿の父と、クラスではあまり目立たない存在だったという母の遺伝子を受け継いだ俺は、幸運にも二つ目の能力まで得ていた。
実は母方の一族は全員がテレポーターだったのだ!
母はいじめっ子から逃げるためにしばしばその能力を利用していたらしい。
お互いを能力に知らずに結婚・出産なんて、どこぞの暗殺者やスパイの映画を彷彿とさせるが、事実なのだから仕方ない。
両親から与えられた二物のおかげで、俺の人生は好スタートをきった。
俺が可愛げのない幼児だったころの話だ。
いまだによくわからないのだが、男の子に女の子の服を着せたり、女の子の髪型をさせたりする親がいる。
母もそんな趣味の持ち主で、その影響か恥ずかしながら最初に覚えた遊びはままごとだった。
その相手にぬいぐるみの延長線上で与えられた人形を使っていたが、俺はそれがポピュラーな着せ替え人形だと知らないまま育つ。
やがて幼稚園に入り、女の子が普通に人形の服を脱がせているのを見て、俺は初めて本来の用途に気づいた。
そしてその直後には、『人形は人形でももっと大きな少女を着替えさせたい』という欲求に駆られる。
当時幼稚園のアイドル的存在だった女の子が、俺が初めて時間を止められたきっかけだった。
学芸会でシンデレラ役だった彼女は、子供サイズながら見事な純白のドレスを着ていた。
しかし俺は、『彼女は白よりも青が似合うんじゃないか』とシンデレラの常識を覆す持論に支配され、とうとう劇の本番中、気がつくと時間が止まっていた。
理性よりも好奇心が勝っていた俺は、静寂の中、舞踏会に出席する引き立て役の中から青いドレスを着た高飛車な少女を主役の隣まで運び、二人の衣装を脱がせた。
舞台の中央でランニングシャツとパンティーだけになった彼女らに感じたことのない刺激を受けながら、主役に青いドレスを着せると、やっぱりよく似合う。
家が金持ちの高飛車女は俺も嫌いだったのでそのまま元の位置に戻し、ついでに残りの下着も脱がせてしまった。パンティーは足首まで下ろしたまま、白のドレスをマフラーのように首に巻きつけてやる。
ようやく時間を動かす方法を知らないことに気づいたが、そう願うと思ったより簡単に能力を使いこなすことができた。
ちなみにその日の学芸会がパニックのうちに中断されたのは言うまでもない。
◆ ◆ ◆
洗面所で顔を洗い、家政婦が作る朝食を待ちながら、今日の健康診断の計画を立てていく。
新入りを一列に並べて、年齢(推測)、身長、体重、座高、栄養状態、眼、歯、耳鼻咽喉、寄生虫卵などなどを細かく検査するのだ。
ここで重要な告白するが、俺は表の世界では小児科と内科の開業医をしている。
都会の田舎の中間にある町で、それなりの規模の医院を経営しているのだが、もちろん誰も俺の裏の顔は知らない。
普通の会社員だった父とはまったく違う仕事をしたいと願った職業選択だったが、結果的に(もちろん病気なのだが)元気に動き回る子供たちを仕事の名目で診ることができ、精神のバランスがうまく保たれているような気がするのは幸運と言える。
反抗心が湧いたのか、(念のため刃物はキッチンに置いていないので)滑稽にも生卵を投げつけてきた家政婦の時間を止め、笑顔に戻してから流し台の前に立たせる。
宙に浮かぶ生卵を取り、黒人捜査官の口に盛られたご飯にかけて食べる。白人通り魔の口に注がれた味噌汁もうまい。
最近、日本の食文化がマイブームで、健康にも良いのでよく注文するのだ。
持ち主に攻撃した罰として、家政婦の股間に割り箸を挿入すると、ゴミ箱に捨てられた野菜くずをミキサーにかけた特製ジュースを口に流し込む。
しかし半分まで飲んだところで止まってしまった。痛みに慣れたのか涙目にはならないが、エプロンをめくると確かに下腹部が膨れている。
朝食直後という時間帯もまったく気にならない俺は、早速彼女を抱えて庭に出る。もちろん世界中の時間を止めてからだ。
小さな畑の土を少し掘り、できた穴の上に便秘患者をしゃがませると、最悪の場合を考えて割り箸を猿轡のように横向きにくわえさせる。
そして真後ろの特等席にしゃがんで、彼女の時間だけ動かした。
俺に卵を投げていたはずが屋外でしゃがんでいる自分の不可解な状況に、慣れている彼女は戸惑うこともなく、あきらめたように呻きながら穴に肥料を入れてくれる。
◆ ◆ ◆
この光景に見覚えがあるなと思ったら、小学生のころの記憶がよみがえってきた。
入学した年には瞬間移動能力にも気づいていて、俺は二つをうまく使って悪戯をし、友達を驚かせることが趣味となっていた。
特に同級生では物足りなさを感じ始めた俺の標的の年齢層は上がり、自然に高学年の女子や新任の教師になることが多くなる。
それに悪戯と言っても、そのレベルは小学生の妄想というにはあまりにも奇妙で間の抜けた、しかもだんだんとハードになっていく内容だった。
最初は普段から露出している手や顔に落書きをする程度だったのが、徐々に範囲が広がり、服をめくって腹に顔を描いたり、本人も気づけない背中に卑猥な絵を描いたり。
その延長で一時期ハマったのが、白人の女子の肌を、額から足の裏まで真っ黒に塗りつぶすというものだ。
もちろん服をすべて脱がせ、裸にしてから小学一年生でも約三十分はかけて黒人にしていくのだが、そのときの俺はこの行為に何を求めていたのか、今思い返してもよく覚えていない。
そして落書きと同じくらい多かったのが、着替えや排泄中の女子を様々な場所へ運ぶというものだ。
特に長い昼休みなどに女子トイレに行くと、ほぼすべての個室で女子が用を足している。
他の国がどうかは知らないが、ここの共同トイレは犯罪防止のため、ドアと床の間にかなり大きな隙間があって、当時の俺は簡単に潜り込むことが可能だった。
あとは内側から鍵を開けて、時には大きなものを半分以上ぶら下げたままの女子をそのまま台車に乗せて校内を巡り、最終的には使われていない倉庫の隅に放置する。
たいへん矛盾する発言だが、小学生のころから事なかれ主義だった俺は、あからさまに自分の能力がバレるような行為まではしなかったのだ。
◆ ◆ ◆
家政婦の尻を拭いて元の位置に立たせた俺は、休診日の午前中、検査室に並べた八人の体を診察した。
そこはプロなので、専用の器具を使ってまずは身長、体重、座高を測る。
次に眼、口を開けさせ喉と歯、耳や鼻の穴を覗いてから全身をくまなく観察し、傷や病気の症状が無いか調べると、最後に寄生虫卵、性病、妊娠の有無まで調べる。
日本人少女は栄養失調、その母親は過労状態、黒人の少女たちは何本か虫歯だったものの、命を危険にさらすような問題はなく、一安心。
本当は尿や血液検査、レントゲンも撮りたいのだが、そこは予算と能力の都合上、あきらめざるをえない状態だ。
忘れないうちに、新しい家具を作ってしまおう。
俺は白衣を脱ぐと、とりあえず黒人の少女を両手に二人ずつ抱えて、リビングに向かった。
昨日は一組の皿しか紹介できなかったが、この部屋には他にも女たちの体で制作した家具が多数使用されている。
まずはソファーの前にひざまずいている女性。
彼女は先ほどの幼稚園の話に出てきた金持ち高飛車女である。
あの騒動のあと、親の転勤で海外へ引越していたのだが、この前の依頼で久しぶりに再会。
相も変わらずというか、使用人を奴隷のようにこき使っていたので、ここでは使用人以下の足載せイスとして重宝している。
またそのすぐ隣には、巨乳を超越した爆乳を持つ美少女が、両手で押し支えた台の上に皿を乗せ、口を大きく開けたまま膝立ちしている。
使い方は皿の上にお菓子やフルーツなどを盛り、口の中にはジャムやチョコレートを注いでフォンデュのように食べる。
これは一人用のもので、パーティーなどを開くときは出席者の人数分を円形に配置するのだ。
二人の前に材料を並べて、それまでソファーの前に置かれていたガラステーブルを庭に出す。
工具箱も出し、木製の脚をのこぎりで切断。大きなガラス板だけ再利用する。
部屋に戻り、四人をカーペットに残った跡を頼りに四隅に配置し、ブリッジの途中まで、というより(頭を上げて顔は正面を向いているので)逆向きの四つんばいと言った方が正確か、のようなポーズをとらせる。
あとはその腹の上に、ガラス板を乗せて完成。
十分もしないうちに、立派な人間テーブルが家具コレクションに加わった。
元々この四人は捕獲したとき、いっしょに遊んでいてとても仲が良さそうだった。
俺の所有物となってからも一つになり、常に互いの顔を見合うことができるのだ。彼女らも幸せを感じているに違いない。
◆ ◆ ◆
中学生になるころには、俺は自分の欲求しか満たされない能力の利用法に限界を感じていた。
そこで、今の仕事に繋がる活動を始める。
まずは何より、自分の存在をできるだけ名のある悪人たちに知ってもらわねばならない。
二つの能力を駆使し、ギャングや売春組織がいる町に潜入・調査をした俺は、そのリーダーたちにメッセージを送った。
具体的には、時間停止中に悪戯した彼らの敵=警察関係者の卑猥な姿や、編集したものではない証拠になるようなホクロや傷跡がある彼らの身内の裸を撮った写真を、手紙と同封して直にポケットに入れたのだ。
案の定、その翌日には指定した場所に依頼文の入った封筒が置かれている。
彼らが起こした事件を目撃した少女を、証言する前に消してほしいという内容で、その日のうちに捕獲して秘密の倉庫へ運んだ。
最初のうちは、向こうが提示した報酬の金額に驚いたが(中学生の俺にはその一割以下でも多すぎるぐらいだった)、今でもその価値観は変わらず、だいたい最初の五分の一以下しか受け取らないことが多い。
また、ここでやっと男としての本能に目覚めた俺は、捕獲した女性たちだけではなく、何の関係もない好みのタイプの一般人からテレビに出ていた女優や歌手まで、とにかく手当たりしだいに関係を持つようになる。
おかげで、高校・医大まで卒業するころにはそんな生活にも飽きてしまった。
自業自得と言われれば反論はできないが、ほぼ時を同じくして、俺は仲間の存在を知る。
確かにこの広い世界で、俺一人だけが特殊な能力を持っているなんて考えはおこがましいと感じていたが、それでもその数と多様さには驚いた。
同じ時間停止能力や瞬間移動能力はもちろん(むしろこの二つが主流だった)、念動能力や透視能力、透過能力=透明人間から本来の姿を忘れてしまった変身能力者、自分の肉体すら持たない憑依能力者まで、ありとあらゆる人間が一つの組織を作り上げていたのだ。
俺のように一人で二つ以上の能力を持つ者は珍しかったが、組織のリーダーは今名を挙げたすべての能力を使いこなしていた。
ここも例によってというか、ハト派とタカ派が対立していて、迷うことなくタカ派に入った俺は、彼らが主催する闇オークションに参加するようになった。
そこで親しくなった同じ時間停止能力者に、こんな質問をしたのを覚えている。
「ところで、今ここで俺が時間を止めたら、お前たちはどうなるんだ?」
「止まらないよ。僕も深くは知らないけど、同じ能力を持つ者が自分から半径何メートルか以内にいると、能力が相殺して効かないらしい。もちろん、僕たち以外は止まるけどね」
「透視や透明人間も?」
「うん、これは全国共通の常識として覚えといた方がいいよ」
「なぜ?」
「時間を止めても動いている人間を見つけたら、とりあえず解除して逃げて。もし穏健派のやつだったら、あとで何をされるかわからないから」
「?」
「やつら穏健派を自称しているくせに、僕たちの行為に対する制裁として、君が普段能力を使ってしているようなことを、自分がされる可能性があるってこと」
◆ ◆ ◆
できたばかりのテーブルで昼食を済ませると、その組織からメールが届いた。来週末に開催されるオークションに関する情報だ。
昨日の収穫から出品する女性の情報を添付して返信、出品者登録を完了してから、俺は残り半分の材料を使って、何を制作するか考える。
しかしそれでも、約三十分後には各配置まで終わってしまった。
日本人少女は、いつでも残飯処理ができるようにダイニングテーブルのイスに座らせ、その母親は虐待の罰として、娘の目の前で人間花瓶としてきれいな花を生けさせてもらう。
二人の黒人少女は他の四人と比べて体格がよかったので、一人をひざまずかせ、もう一人をその上に座らせて両腕の関節を上げ、リクライニングできる肘掛椅子として使うことにした。
そろそろ夕食の買い出しにでも出かけよう。
夕食と言えば……、俺は今日の最後に、こんなことも思い出した。
◆ ◆ ◆
組織に入りたてのころ、瞬間能力者の友人から伝授された利用法、というよりは遊びの一環で、今でも年に数回実施しているものがある。
彼の母国で放送されているバラエティ番組の企画をそっくりそのまま流用したものらしいのだが、眼を閉じたまま世界地図を適当に指さし、偶然当てた国に行き様々な課題をクリアしなければならないというゲームだ。
俺の場合は、暇なときにこの方法で行き先を決め、その国や地域のお宅に勝手にお邪魔して、様々な生活文化に触れ、郷土料理などをいただいたりしている。
彼の国には一般家庭の晩御飯をタレントが突撃取材するという企画もあるらしい。
昨日も行ってきたばかりだが、日本とはつくづく奇妙な国だ。
その方法で最初に日本に旅行したときの衝撃は、今でもよく覚えている。
同じ国なのに北と南、東と西とで外国のように違う文化。人々が使う言葉や食生活も地方や県という区切りごとに特色があり、非常に興味を持った。
特に、『京都』や『奈良』という地で多く鑑賞した木像の芸術作品たちが放つ魅力に、俺は一瞬で虜になる。
『薬師如来』を囲む『十二神将』や『三十三間堂』の1030体以上の立像に影響を受けた俺が、日本美術の収集家・それらをモチーフにした現代美術家として個人美術館を造りたいと思うようになるのは、また別の話である。
◆ ◆ ◆
次の記録が再び明日となるか、来週末となるかはわからないが、三日坊主にならないように続けていこうと思う。
そのために、シチュエーションや消したい(=俺の所有物として扱ってほしい)人物のイニシャルなどをリクエストしてくれれば、その遂行内容の記録をここで公開しよう。(※もちろんフィクションです。いちおう念のため)
そんな奇妙なことを考えながら、俺は財布を持って、近所のスーパーマーケットへ向かった。
典型的な朝の情景描写で目が覚めると、典型的に両手を真上に伸ばしながら大きなあくびをする。
辺りを見回すと、俺の寝相による犠牲者が三人、ベッドから転げ落ちていた。
特に中国の軟体少女など、ブリッジをしすぎて普通とは逆向きにうずくまっているような、人体の神秘を想わせる有り様になっている。
いったいどのように押し出せばこんな状態になるのか。
父の話では、俺は赤ん坊のころから寝相が悪かったらしい。
就寝時にモノをくわえさせていたフランス令嬢の口を開け、夜に出したときに鼻へ逆流していた分もかき出して飲み込ませる。
枕元にひざまずいている黒人プロレスラーの頭の上に目覚まし時計を乗せておいたのだが、作動した様子がない。
電池が切れたのだろう。今日は急ぐ用事もなかったが、口実ができたのでその筋肉質な体を立たせる。
思い切りビンタを食らわすと、五発目でベッドに倒れた。今まで力を武器に闘っていた女性を痛めつけるのは、何度やっても気分がいい。
ガーナ人教師の口に小用を足しながら、俺は初めて時間を止めたときのことを思い出した。
◆ ◆ ◆
元々この時間停止能力は父方の一族に代々受け継がれてきたものだった。
父は普通の恋愛結婚で俺が生まれたのだが、その父は祖父が当時のミスワールドを俺みたいに捕獲、監禁して産ませた子供らしい。
そんな理由でかなり恵まれた容姿の父と、クラスではあまり目立たない存在だったという母の遺伝子を受け継いだ俺は、幸運にも二つ目の能力まで得ていた。
実は母方の一族は全員がテレポーターだったのだ!
母はいじめっ子から逃げるためにしばしばその能力を利用していたらしい。
お互いを能力に知らずに結婚・出産なんて、どこぞの暗殺者やスパイの映画を彷彿とさせるが、事実なのだから仕方ない。
両親から与えられた二物のおかげで、俺の人生は好スタートをきった。
俺が可愛げのない幼児だったころの話だ。
いまだによくわからないのだが、男の子に女の子の服を着せたり、女の子の髪型をさせたりする親がいる。
母もそんな趣味の持ち主で、その影響か恥ずかしながら最初に覚えた遊びはままごとだった。
その相手にぬいぐるみの延長線上で与えられた人形を使っていたが、俺はそれがポピュラーな着せ替え人形だと知らないまま育つ。
やがて幼稚園に入り、女の子が普通に人形の服を脱がせているのを見て、俺は初めて本来の用途に気づいた。
そしてその直後には、『人形は人形でももっと大きな少女を着替えさせたい』という欲求に駆られる。
当時幼稚園のアイドル的存在だった女の子が、俺が初めて時間を止められたきっかけだった。
学芸会でシンデレラ役だった彼女は、子供サイズながら見事な純白のドレスを着ていた。
しかし俺は、『彼女は白よりも青が似合うんじゃないか』とシンデレラの常識を覆す持論に支配され、とうとう劇の本番中、気がつくと時間が止まっていた。
理性よりも好奇心が勝っていた俺は、静寂の中、舞踏会に出席する引き立て役の中から青いドレスを着た高飛車な少女を主役の隣まで運び、二人の衣装を脱がせた。
舞台の中央でランニングシャツとパンティーだけになった彼女らに感じたことのない刺激を受けながら、主役に青いドレスを着せると、やっぱりよく似合う。
家が金持ちの高飛車女は俺も嫌いだったのでそのまま元の位置に戻し、ついでに残りの下着も脱がせてしまった。パンティーは足首まで下ろしたまま、白のドレスをマフラーのように首に巻きつけてやる。
ようやく時間を動かす方法を知らないことに気づいたが、そう願うと思ったより簡単に能力を使いこなすことができた。
ちなみにその日の学芸会がパニックのうちに中断されたのは言うまでもない。
◆ ◆ ◆
洗面所で顔を洗い、家政婦が作る朝食を待ちながら、今日の健康診断の計画を立てていく。
新入りを一列に並べて、年齢(推測)、身長、体重、座高、栄養状態、眼、歯、耳鼻咽喉、寄生虫卵などなどを細かく検査するのだ。
ここで重要な告白するが、俺は表の世界では小児科と内科の開業医をしている。
都会の田舎の中間にある町で、それなりの規模の医院を経営しているのだが、もちろん誰も俺の裏の顔は知らない。
普通の会社員だった父とはまったく違う仕事をしたいと願った職業選択だったが、結果的に(もちろん病気なのだが)元気に動き回る子供たちを仕事の名目で診ることができ、精神のバランスがうまく保たれているような気がするのは幸運と言える。
反抗心が湧いたのか、(念のため刃物はキッチンに置いていないので)滑稽にも生卵を投げつけてきた家政婦の時間を止め、笑顔に戻してから流し台の前に立たせる。
宙に浮かぶ生卵を取り、黒人捜査官の口に盛られたご飯にかけて食べる。白人通り魔の口に注がれた味噌汁もうまい。
最近、日本の食文化がマイブームで、健康にも良いのでよく注文するのだ。
持ち主に攻撃した罰として、家政婦の股間に割り箸を挿入すると、ゴミ箱に捨てられた野菜くずをミキサーにかけた特製ジュースを口に流し込む。
しかし半分まで飲んだところで止まってしまった。痛みに慣れたのか涙目にはならないが、エプロンをめくると確かに下腹部が膨れている。
朝食直後という時間帯もまったく気にならない俺は、早速彼女を抱えて庭に出る。もちろん世界中の時間を止めてからだ。
小さな畑の土を少し掘り、できた穴の上に便秘患者をしゃがませると、最悪の場合を考えて割り箸を猿轡のように横向きにくわえさせる。
そして真後ろの特等席にしゃがんで、彼女の時間だけ動かした。
俺に卵を投げていたはずが屋外でしゃがんでいる自分の不可解な状況に、慣れている彼女は戸惑うこともなく、あきらめたように呻きながら穴に肥料を入れてくれる。
◆ ◆ ◆
この光景に見覚えがあるなと思ったら、小学生のころの記憶がよみがえってきた。
入学した年には瞬間移動能力にも気づいていて、俺は二つをうまく使って悪戯をし、友達を驚かせることが趣味となっていた。
特に同級生では物足りなさを感じ始めた俺の標的の年齢層は上がり、自然に高学年の女子や新任の教師になることが多くなる。
それに悪戯と言っても、そのレベルは小学生の妄想というにはあまりにも奇妙で間の抜けた、しかもだんだんとハードになっていく内容だった。
最初は普段から露出している手や顔に落書きをする程度だったのが、徐々に範囲が広がり、服をめくって腹に顔を描いたり、本人も気づけない背中に卑猥な絵を描いたり。
その延長で一時期ハマったのが、白人の女子の肌を、額から足の裏まで真っ黒に塗りつぶすというものだ。
もちろん服をすべて脱がせ、裸にしてから小学一年生でも約三十分はかけて黒人にしていくのだが、そのときの俺はこの行為に何を求めていたのか、今思い返してもよく覚えていない。
そして落書きと同じくらい多かったのが、着替えや排泄中の女子を様々な場所へ運ぶというものだ。
特に長い昼休みなどに女子トイレに行くと、ほぼすべての個室で女子が用を足している。
他の国がどうかは知らないが、ここの共同トイレは犯罪防止のため、ドアと床の間にかなり大きな隙間があって、当時の俺は簡単に潜り込むことが可能だった。
あとは内側から鍵を開けて、時には大きなものを半分以上ぶら下げたままの女子をそのまま台車に乗せて校内を巡り、最終的には使われていない倉庫の隅に放置する。
たいへん矛盾する発言だが、小学生のころから事なかれ主義だった俺は、あからさまに自分の能力がバレるような行為まではしなかったのだ。
◆ ◆ ◆
家政婦の尻を拭いて元の位置に立たせた俺は、休診日の午前中、検査室に並べた八人の体を診察した。
そこはプロなので、専用の器具を使ってまずは身長、体重、座高を測る。
次に眼、口を開けさせ喉と歯、耳や鼻の穴を覗いてから全身をくまなく観察し、傷や病気の症状が無いか調べると、最後に寄生虫卵、性病、妊娠の有無まで調べる。
日本人少女は栄養失調、その母親は過労状態、黒人の少女たちは何本か虫歯だったものの、命を危険にさらすような問題はなく、一安心。
本当は尿や血液検査、レントゲンも撮りたいのだが、そこは予算と能力の都合上、あきらめざるをえない状態だ。
忘れないうちに、新しい家具を作ってしまおう。
俺は白衣を脱ぐと、とりあえず黒人の少女を両手に二人ずつ抱えて、リビングに向かった。
昨日は一組の皿しか紹介できなかったが、この部屋には他にも女たちの体で制作した家具が多数使用されている。
まずはソファーの前にひざまずいている女性。
彼女は先ほどの幼稚園の話に出てきた金持ち高飛車女である。
あの騒動のあと、親の転勤で海外へ引越していたのだが、この前の依頼で久しぶりに再会。
相も変わらずというか、使用人を奴隷のようにこき使っていたので、ここでは使用人以下の足載せイスとして重宝している。
またそのすぐ隣には、巨乳を超越した爆乳を持つ美少女が、両手で押し支えた台の上に皿を乗せ、口を大きく開けたまま膝立ちしている。
使い方は皿の上にお菓子やフルーツなどを盛り、口の中にはジャムやチョコレートを注いでフォンデュのように食べる。
これは一人用のもので、パーティーなどを開くときは出席者の人数分を円形に配置するのだ。
二人の前に材料を並べて、それまでソファーの前に置かれていたガラステーブルを庭に出す。
工具箱も出し、木製の脚をのこぎりで切断。大きなガラス板だけ再利用する。
部屋に戻り、四人をカーペットに残った跡を頼りに四隅に配置し、ブリッジの途中まで、というより(頭を上げて顔は正面を向いているので)逆向きの四つんばいと言った方が正確か、のようなポーズをとらせる。
あとはその腹の上に、ガラス板を乗せて完成。
十分もしないうちに、立派な人間テーブルが家具コレクションに加わった。
元々この四人は捕獲したとき、いっしょに遊んでいてとても仲が良さそうだった。
俺の所有物となってからも一つになり、常に互いの顔を見合うことができるのだ。彼女らも幸せを感じているに違いない。
◆ ◆ ◆
中学生になるころには、俺は自分の欲求しか満たされない能力の利用法に限界を感じていた。
そこで、今の仕事に繋がる活動を始める。
まずは何より、自分の存在をできるだけ名のある悪人たちに知ってもらわねばならない。
二つの能力を駆使し、ギャングや売春組織がいる町に潜入・調査をした俺は、そのリーダーたちにメッセージを送った。
具体的には、時間停止中に悪戯した彼らの敵=警察関係者の卑猥な姿や、編集したものではない証拠になるようなホクロや傷跡がある彼らの身内の裸を撮った写真を、手紙と同封して直にポケットに入れたのだ。
案の定、その翌日には指定した場所に依頼文の入った封筒が置かれている。
彼らが起こした事件を目撃した少女を、証言する前に消してほしいという内容で、その日のうちに捕獲して秘密の倉庫へ運んだ。
最初のうちは、向こうが提示した報酬の金額に驚いたが(中学生の俺にはその一割以下でも多すぎるぐらいだった)、今でもその価値観は変わらず、だいたい最初の五分の一以下しか受け取らないことが多い。
また、ここでやっと男としての本能に目覚めた俺は、捕獲した女性たちだけではなく、何の関係もない好みのタイプの一般人からテレビに出ていた女優や歌手まで、とにかく手当たりしだいに関係を持つようになる。
おかげで、高校・医大まで卒業するころにはそんな生活にも飽きてしまった。
自業自得と言われれば反論はできないが、ほぼ時を同じくして、俺は仲間の存在を知る。
確かにこの広い世界で、俺一人だけが特殊な能力を持っているなんて考えはおこがましいと感じていたが、それでもその数と多様さには驚いた。
同じ時間停止能力や瞬間移動能力はもちろん(むしろこの二つが主流だった)、念動能力や透視能力、透過能力=透明人間から本来の姿を忘れてしまった変身能力者、自分の肉体すら持たない憑依能力者まで、ありとあらゆる人間が一つの組織を作り上げていたのだ。
俺のように一人で二つ以上の能力を持つ者は珍しかったが、組織のリーダーは今名を挙げたすべての能力を使いこなしていた。
ここも例によってというか、ハト派とタカ派が対立していて、迷うことなくタカ派に入った俺は、彼らが主催する闇オークションに参加するようになった。
そこで親しくなった同じ時間停止能力者に、こんな質問をしたのを覚えている。
「ところで、今ここで俺が時間を止めたら、お前たちはどうなるんだ?」
「止まらないよ。僕も深くは知らないけど、同じ能力を持つ者が自分から半径何メートルか以内にいると、能力が相殺して効かないらしい。もちろん、僕たち以外は止まるけどね」
「透視や透明人間も?」
「うん、これは全国共通の常識として覚えといた方がいいよ」
「なぜ?」
「時間を止めても動いている人間を見つけたら、とりあえず解除して逃げて。もし穏健派のやつだったら、あとで何をされるかわからないから」
「?」
「やつら穏健派を自称しているくせに、僕たちの行為に対する制裁として、君が普段能力を使ってしているようなことを、自分がされる可能性があるってこと」
◆ ◆ ◆
できたばかりのテーブルで昼食を済ませると、その組織からメールが届いた。来週末に開催されるオークションに関する情報だ。
昨日の収穫から出品する女性の情報を添付して返信、出品者登録を完了してから、俺は残り半分の材料を使って、何を制作するか考える。
しかしそれでも、約三十分後には各配置まで終わってしまった。
日本人少女は、いつでも残飯処理ができるようにダイニングテーブルのイスに座らせ、その母親は虐待の罰として、娘の目の前で人間花瓶としてきれいな花を生けさせてもらう。
二人の黒人少女は他の四人と比べて体格がよかったので、一人をひざまずかせ、もう一人をその上に座らせて両腕の関節を上げ、リクライニングできる肘掛椅子として使うことにした。
そろそろ夕食の買い出しにでも出かけよう。
夕食と言えば……、俺は今日の最後に、こんなことも思い出した。
◆ ◆ ◆
組織に入りたてのころ、瞬間能力者の友人から伝授された利用法、というよりは遊びの一環で、今でも年に数回実施しているものがある。
彼の母国で放送されているバラエティ番組の企画をそっくりそのまま流用したものらしいのだが、眼を閉じたまま世界地図を適当に指さし、偶然当てた国に行き様々な課題をクリアしなければならないというゲームだ。
俺の場合は、暇なときにこの方法で行き先を決め、その国や地域のお宅に勝手にお邪魔して、様々な生活文化に触れ、郷土料理などをいただいたりしている。
彼の国には一般家庭の晩御飯をタレントが突撃取材するという企画もあるらしい。
昨日も行ってきたばかりだが、日本とはつくづく奇妙な国だ。
その方法で最初に日本に旅行したときの衝撃は、今でもよく覚えている。
同じ国なのに北と南、東と西とで外国のように違う文化。人々が使う言葉や食生活も地方や県という区切りごとに特色があり、非常に興味を持った。
特に、『京都』や『奈良』という地で多く鑑賞した木像の芸術作品たちが放つ魅力に、俺は一瞬で虜になる。
『薬師如来』を囲む『十二神将』や『三十三間堂』の1030体以上の立像に影響を受けた俺が、日本美術の収集家・それらをモチーフにした現代美術家として個人美術館を造りたいと思うようになるのは、また別の話である。
◆ ◆ ◆
次の記録が再び明日となるか、来週末となるかはわからないが、三日坊主にならないように続けていこうと思う。
そのために、シチュエーションや消したい(=俺の所有物として扱ってほしい)人物のイニシャルなどをリクエストしてくれれば、その遂行内容の記録をここで公開しよう。(※もちろんフィクションです。いちおう念のため)
そんな奇妙なことを考えながら、俺は財布を持って、近所のスーパーマーケットへ向かった。
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こういった、コレクションした女性を「モノ」として扱うシチュエーションは私も好きです。
家具や食器、性処理の道具にされても止められた時の記憶のまま自身の現状を認識できない女性たち。
特にプロレスラーや高飛車な女のようなプライドが高い女性が無抵抗のまま「モノ」扱いされるのは来るものがありますね。
シチュエーションとして思いついたのは、
?日本の清純派アイドル(10代後半〜20代前半)が、熱愛報道に失望したファンの依頼で、恥ずかしい格好のオブジェとして扱われてしまう
?作中でもハト派とタカ派の話が出ていましたが、派閥にこだわらず女性能力者たちをコレクションする。
コレクションされるのは、「主人公と性格や考えが合わない」、「主人公からすれば能力の使い方に賛同できない」能力者で、国籍や人種は問わない
です。
新作のインスピレーションのもとになれば幸いです。
長くなってしまいましたが、これからも応援させていただきます。